現れた裏

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「うがっ」  言葉にならない悲鳴をあくな、虎谷は闇雲に辺りを照らしまくる。照らされた絵の人物たちは、こぞって不気味な笑い声をあげ、虎谷を蔑み見下ろしてきた。  恐怖でパニック状態だった虎谷は、やがて苛立ちが勝つのを感じる。 「なんだよっ? 何がおかしいってんだっ!」  まさに頭にきた虎谷は、笑う看板を懐中電灯で叩く。幾度も叩くうちに、笑い声がやんだ。代わりにうめき声が響く。最初は大人のそれだったが、だんだんと声が幼くなっていった。  さすがに罪悪感をおぼえ、虎谷は叩くのをやめてやる。するとまた、書籍がパタパタと一斉に落ちる音が木霊した。  再び硬直した虎谷へ向かい、書籍がこれ見よがしに立ち上がってはひっくり返る。その繰り返しに飽きた書籍が、羽のようにページをばたつかせて飛び交う。  飛び交ううちの一冊が、虎谷へむかって飛んできた。 「やめろ! お前たち!」  よくとおる声が書籍を制する。声の主が駆け寄り、虎谷を庇い両腕を拡げた。虎谷は憤然と立つ有河の後頭部をただ見つめる。しかし書籍はスピードを緩めず、有河を直撃した。  拳を握りしめ、仁王立ちの虎谷が吼える。 「てめえっ! 本だからって容赦しねえぞ! コルァッ!」  憧れの有河が大事に扱う書籍だから、虎谷もなるたけ丁寧に大事に扱ってきた。しかし書籍が、有河を傷つけた。
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