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飛んできた書籍を掴み、虎谷はそれを床に叩きつけようとした。が、それを細い指がとどめる。
「わたしは、大丈夫、だから」
どうやら額に当たったらしく、一筋の紅い切れ目が鮮やかに白い肌を裂いている。
さらに頭に血が昇る虎谷だったが、細い指がやけに強く彼の手首を握り、振り上げた腕を下ろしにかかる。
意外過ぎる剛腕に、虎谷は呆れた。
「有河さん、痛いっすよ……つか、剛腕」
「書籍は、重いから」
はにかむ有河という奇跡を前に、虎谷はどぎまぎして腕をおろす。緩められた指を見つめ、「あんな細い指が……」と虎谷は感心した。
誰かが舌打ちした気配がし、虎谷はそちらへ向き直る。睨む先には、いつぞや窃盗にあった書籍が書棚の上で仁王立ちになっていた。
コミカルな光景に虎谷が噴き出しそうなのを眼差しで制し、有河が「彼」へ問いただす。
「君はなんのつもりで騒ぐ?」
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