現れた裏

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「有河さん、こいつら難しいこと載せてる本のクセに、俺並みにガキなんだって。これで反省して、大丈夫んなるだろ! な?!」  書籍たちをぐるりと見回してウィンクし、虎谷は微笑んだ。和んだ空気が皆を包む。  けれど書棚で仁王立ちになっていた「僕」が、納得する様子はない。 『お前がムカつく! お前に言われたくない』 「なんだと? てめえっ!」  一触即発に再度戻るが、虎谷はポケットの違和感に気づいて冷静になった。そこから湿布薬を取りだし、少年は仁王立ちの「僕」へかぶせてやる。 「それ、やるよ。有河さんがくれた」 「…………!」  書棚に仁王立ちとなっていた書籍は、一度万引きされたもの。犯人と一緒に、地面へ叩きつけられ、きっと痛がっているのだーー単純に、至極単純に、虎谷は最良の答を出した。  仁王立ちだった書籍は柔らかく笑み、パタリと倒れた。他の書籍たちもおとなしく、穏やかに所定の位置に戻り、ただの書籍となる。  宴が終わり、いつの間にか明るくなっていた店内で、虎谷は無邪気に有河へ微笑みかけた。  有河もむず痒いような笑顔らしきものを、刹那、浮かべ、無表情に戻る。 「店長に連絡。明日から開店だ。残業代も忘れず請求」 「了解っす!」  敬礼した虎谷は、きびきびとスマホを手にしてバックヤードへ。  売り場の有河は自然な笑みを浮かべ、書籍と書棚を点検してゆく。 『その笑顔は僕らだけが、今は知ってる』 『知ってる……』  灯りを消して、有河は去った。  翌朝の店長は、上機嫌。店員たちに分厚い封筒に入った特別ボーナスが出たが……。 「これ、湿布薬っすけど?!」  虎谷の咆哮をよそに、ブックス真理谷は今日も無事開店したのである。 終(20170709)
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