裏返すもの～ブックス真理谷奇譚～

裏返す

　とにかく、またも本棚に陳列された書籍が裏返えされている。それに気づいた有河は、苛立ちながら手早く書籍を並べ直してゆく。
　てきぱきと擬音がするような所作に、有河の後輩である虎谷も駆け寄って手伝い始めた。けれどそんな彼を制し、有河は真っ直ぐに本棚を見たままで指示をだす。
「虎谷、ここはいいから、あっちの人文系頼む」
「了解っす！　女史」
「女史じゃない」
　このブックス真理谷(まりや)は、マニアックな品揃えで一部の通には名の知られた書店だ。通な人々は大概が怪しげな紳士淑女だが、中にはこじれ過ぎた者も一定数存在する。一握りだが、書籍に耽溺するあまり、書店を攻撃する暴挙にでる者がいるのだ。