現れた裏

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(こえぇえ~!)  人間よりも書籍を愛しているふしのある有河が、かように怒るのを虎谷は初めて見る。書籍窃盗の犯人にも、ここまでの怒りを見せてはいなかった。  例によって監視カメラには不審者は映っておらず、ただただ書籍を入れた段ボール箱が佇むばかり。  他の店員たちは奇妙過ぎるし作業ばかりが増える事件にうんざりで、本気で辞めようとする者までいる。店長は彼らをとめるために必死で説得に明け暮れ、新たに雇った警備員がいなければ、窃盗し放題ではないか、と危ぶまれる事態となった。  新参ものの虎谷など、困惑するしかない状況の中、有河は粛々と書籍を点検し、丁寧に整えてゆく。一冊一冊、ゆっくりと愛情を持って大切に。肌を晒され、うちひしがれていたような書籍が、有河のてのひらの中で、よみがえった気さえする。  真摯な姿勢に心を打たれ、虎谷は呆然と見守っていた。だが有河の端正な横顔が閃き、無言で小走りに別の本棚へ行く。 (俺もやらなきゃ)  有河の愛する書籍を、綺麗に直し整えるのが、宿命のように感じている。
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