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唖然とし、虎谷は動けない。
とりあえず3日間店を閉め、店長は旅に出ると言い、おぼつかない足どりで、売り場へ戻った。店員たちはいよいよ真剣に新しい職探しをしなくては、と一斉にスマホとにらめっこしながら部屋を出て行く。
残された虎谷はちらちらと有河を窺い、ペットボトルの茶をグイグイ飲み干す白い喉に、いつしか見いっていた。
しかし閃く瞳に睨まれ、慌てて立ち上がって、金属製のポールに頭をぶつけてしまう。うなり頭をおさえてしゃがむ虎谷の肩に、何かがのせられた。見ればそれは、むき出しの湿布薬。虎谷は思わず声をあげた。
「これ、頭に貼れないっすよお!」
「悪い。氷のうがなくて」
ギョッとしてふりあおぐと、そこで眦を紅くした有河が、見下ろしてきている。
口をパクパクする虎谷を一瞥し、スレンダーな彼女はすり抜けて売り場の扉へと歩き去った。
虎谷は湿布薬を握りしめているのに気づき、あたふたと膝にのせる。できるだけ丁寧にシワを伸ばしたそれを、大切にポケットにしまった。狭い空間でスキップして部屋を出て、虎谷はうやうやしく扉を閉める。
その直後、風もないのに書籍がパタリと落ちた。
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