暗闇坂で逢ってた

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      1  愛しい女は涼子だけだった5年前は、毎日ホームへ入る電車 のような待ち合わせにふけった。退社時間になればやにわに会 社を飛び出し、地球を蹴って彼女のもとへと向う。彼女もまた そうだったのか…? 聞いた事はなかった。 二人が逢う場所はかなり斜のある「暗闇坂」っていう道で、陽 が暮れるとあたりは本当に真っ暗になった。  初めて逢ったのもこの場所で、俺が昼食をとりに外に出た時 の事、この坂の上で彼女がつまずき、転げ落ちて来たのを通り がかりに止めてやった事がきっかけだった。その後で俺達は周 到なランチサービスを一緒に食べ、仕事が終わったら坂の下で 逢おうと約束を結んだ。よくいる恋人達の様に、俺達の付き合 いがそれから始まったのだ。  涼子は証券会社のOLで、俺はSEだ。二人の会社は暗闇坂 を中心にして、正反対の方向にあった。その頃の俺のアフター ファイブは天国の様な時間だった。仕事の疲れなど無い。彼女 と飲みに行き、会話するだけでもう何もいらなかった。週末も 一緒に過ごした。どっちも週休二日制だったから、土曜日に逢 い、日曜の夜には別れた。坂の下で待ち合わせ、坂の下で別れ るを繰り返した。坂はいつも暗い闇に囲まれ、昼間でさえうっ すらと夜のようだった。だけど俺に恋愛のきっかけをつくって くれた恩人、恩坂。暗闇は俺を少しだけ明るくさせてくれたよ うな気がした。  みてくれの悪い物ほど良いものが多い。俺はこれまでそう思 っていたし、今だって… そう… だけど涼子は違った。彼女 は美人で、性格もとてもよかった。人に嫌われる方法を多分、 知らないだろうと。21歳とは思えない清楚な身なりと愛らしい 口元、俺を、いや男をひきつける魅惑を十二分に兼ね備えてい た。そんな女性を俺は手にいれたのだ。  
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