暗闇坂で逢ってた

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12時になった。日付が変わった。電話をした。出ない。 1時になった。電話をした。出ない。 2時。どこかで火事のようだ。電話をした。出ない。こんな事 は初めてだった。もう眠れる気分じゃない。俺はビデオをセッ トし、録りっぱなしだった《ストレンジャー・ザン・パラダイ ス》、《勝手にしやがれ》、《ウォンテッド》を、ここぞとば かりたて続けに浴びるほど見た。  夜明け近くにコーヒーを作って飲み、出社時間少し前に電話 を入れ「頭痛がひどい」と告げて俺は会社を休んだ。涼子にも 電話をしようとしたが、こんな朝っぱらから何を話せばいいの か分からなくてそれはやめにした。どうせ夕方になれば逢える んだ。そう思いながらベッドに横たわると、ほんの数秒で意識 がなくなり俺は眠りに入ってしまった。  はっきり目が覚めたのはpm5時を少し過ぎてからだった。 虚ろなまま聞いた《夕焼けこやけ》のメロディーは17時の合図 で、街のどこかに取り付けられたスピーカーから毎日流される ものだ。「まずったッ」 俺は起き上がり、スピードをつけて着替えをした。アラームを かけとくべきだった。しかしそんな事を言ってもしょうがない。 早くしないと… 俺は蒲田に住んでた。大森まで歩くには距離 がある。電車、バスにしたってタイミングよく来る訳じゃない。 俺は走って大通りまで行きタクシーを止め、「池上通りを通っ て大森駅まで」と、リア・シートから早口で言った。焦る気持 ちはどうにもおさまらないまま時間だけが進む…。遅刻者の気 分はいつでも同じだ。汗を流し、感情は高まるばかりだ。  渋滞も手伝って暗闇坂に着いたのは結局6時を過ぎだていた。 俺は坂の下、辺りを見回したが涼子のりょの字も無い。コンク リートの坂道とそれを覆う様にのびた多数の大樹が陰翳さをア ピールし、時折りざわざわと音を立てて笑った。 帰っちまったのか、それともまだ来てないのか、来ないのか?  どっちにしろもうしばらく待ってみよう。そう思って俺は大き く呼吸をした。
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