1人が本棚に入れています
本棚に追加
4
無気力が俺を支配して5日間が過ぎた時、我慢の限界に達し
た。どうしてももう一度だけ涼子に逢いたい。そうしなければ
このふ抜けた日々から脱出するきっかけはないと思った。拒食
症。体重は数日で6キロも減り、肥満に悩むデブ達を羨ましが
らせた。大好きな時間は無く、ぼやけた虚無が綿アメの様に俺
にまとわりつくだけだった。
彼女から連絡… 俺はそれを待っていたのかも知れない。だけ
どそれは一度もなかった。 pm9時になる頃、心のままに涼子
に電話をした。Turrr…。
「小池ですけど…」
2コールで出た。やけに懐かしい声、紛れもなく彼女のものだ
った。
「結城だけど…久し振り」
「…こんばんわ」
「ああ」
「…」
「考えたんだけど、もう一度だけ逢って欲しいんだ。もう一度
だけ… 絶対に逢いたい」そう言うと彼女はわずかにためらっ
たが「うん、わかった」と言った。
「うん、わかった。それじゃあ、明日なら…」
「ああ~ じゃあ明日の7時に坂の上で」
「坂の…うえ?」
「そう。今まで下ばかりだったろ、だから一回くらいは上で…
なッ」
「わかった。じゃあ」
彼女は早く電話を切りたがっている。
「それじゃあ」
名残惜しさは消えぬまま、俺は受話器を置いた。もっと話がし
たかった寂しい俺の口。彼女にもらったキャンディーはもう底
をついていた。幸福そうなブリキの缶だけが、テーブルの上で
無聊を極めている。明日の夜…明後日の夜、俺は何をしている
のだろうか?
一年後、五年後、十年後は、俺は何処で何をしているのか?
不安まじりで未来は確実にやって来ている。
「死にそうだよ、涼子」
意味もなく俺はそう呟いた。救急車が夜の街を駆け抜け、けた
たましいサイレンがドップラー効果でこの部屋を通り過ぎて行
った。こんな気持ちを言葉にするなら…誰かの歌にあったっけ、
『全てが始まるのは夜』と…。
最初のコメントを投稿しよう!