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ホームルームが終わり、チャイムが鳴る。
「端島 葉海龍(はしま ようり)」は、スクールバッグに教科書や筆記具を詰め込み、帰る準備をしていた。
「よ・う・りー!」
聞き慣れた声が、葉海龍を呼ぶ。
「――なに? 和平」
この中学校で体育教師をしている「鴇田 和平(ときた かずひら)」が、葉海龍の居る教室にやって来た。
和平は葉海龍の叔父で、校内でも頻繁に言葉を交わす、親しい間柄である。
「今日も家に行っていい?」
「いいけど、うるさくしないでよ。 ボク、今週は忙しいからさ、休める時にはしっかり休みたいの」
「はいはい」
和平は、葉海龍の頭をぽんぽんと叩いてから教室を出て行った。
同じタイミングで、葉海龍のスマートフォンが着信を告げる。
「もしもし」
電話に出ながら、葉海龍はバッグを持って早足で教室を出た。
「15分くらいでそっちに行けると思いますから、そちらも用意をお願いします」
葉海龍は部活動には参加していなかった。
代わりに、別の事に熱中していた。
◇
それは【EV-R】と呼ばれるモータースポーツ。
近年新しく設立された競技で、参加が容易かつ、万全で手厚いサポート体制から、参加者が徐々に増えてきている競技だ。
「今日は車両のセッティング確認でしたよね?」
中学校近くにある小さなサーキット。
自分が所属するチームが拠点を置く場所でもある。
そして、レーシングスーツに身を包んだ葉海龍は、チームが使っている倉庫に停められた車の側に歩み寄った。
全長240cm、全幅125cmほどの車。
その車が、EV-Rで使われる車両である。
バッテリーとモーターで動く電気自動車であり、F1カーを小さくしたような外見が特徴となっている。
競技用モデル以外に、公道走行を可能にした市販型もあり、EV-Rの流行もあって、市販型の販売台数も徐々に増えていた。
「ブレーキを新しいのにしてみたんだ。 葉海龍の走りに合うか確認してほしいんだよ」
「わかりました」
葉海龍の車を整備しているメカニック「長谷川」からキーを受け取り、葉海龍は自分の車に歩み寄る。
この車にドアや窓は無く、畳半畳ほどのスペースに、上から体を押し込んで乗り込むのだ。
「それじゃあ、少し走ってきます」
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