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「葉海龍ー!」
テスト走行を終え、車から降りた葉海龍の元へ、和平が走って来た。
「和平。 なんでここに?」
「仕事が早く終わったし、いつも葉海龍の話でしかEV-Rの事聞いてなかったでしょ?
この目で実物を見てみたかったから、来てみたんだ」
ヘルメットを脱いだ葉海龍は、チームが使っている設備、葉海龍の乗る車に驚く和平を見て、微笑んだ。
「結構小さい車なんだね」
和平が車をまじまじと見る。
「ミニカーって呼ばれる車を改造して、レース用にしたからだよ。
ミニカーは分類上原付扱いで、免許は普通自動車免許じゃないと運転できないけど」
「EV-Rは違うの?」
「EV-Rの車両は、敷地内でしか乗れない。 参加は13歳からね」
葉海龍が和平に説明していると、長谷川が気を利かせて、車のカウル(外板やボディのこと)を外した。
「フォーミュラカーっていうより、ゴーカートのタイヤが外に飛び出たみたい」
「大昔のレースカーは、みんなこうだよ?」
「動力はモーターなんだっけ?」
「そ。 シートのすぐ後ろがモーターで、バッテリーはシートの両脇にある」
葉海龍は、フレームのみとなった車の側にしゃがみ、バッテリーやモーターを指差して、和平に教えていった。
「スピードはどのくらい出る?」
「たしか70kmくらい? でもレース専用車だし、もう少し出るかも」
「すごい車なんだな」
目を輝かせて葉海龍の話を聞く和平は、まるでおもちゃを見てはしゃぐ子供のようだった。
「実際のレースはどんな感じなんだろう。 動画じゃイマイチ迫力が……」
和平は少し暗い表情になり、呟く。
「だったら、和平もチームに入れば?
チームに所属できる人や、人数に制限は無いし、オペレーターが不足気味でさ、ボクのチーム」
葉海龍の提案に、和平は目を見開いて驚いていた。
「ならチームに入るよ! オレも葉海龍のために何かしてあげたかったし!」
「わかった! わかったからはしゃぎすぎないで! 外したカウルとか足元にあるから!」
「あっ、ごめん」
葉海龍の肩を掴んではしゃぐ和平を静止し、葉海龍はそばにあった台車を足で押し、カウルを遠ざける。
「本当に、ありがとう」
葉海龍が一息吐いた時、和平は優しく葉海龍を抱きしめてきた。
そして、ぽんぽんと優しく葉海龍の頭を叩く。
「ちょっと和平! 他人が居る――まぁ、いいか」
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