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社会人の時は
元少年が社会人になり、三年目になった時だった。
子供が出来た。相手はエリだ。最近、エリの生理が来ないからおかしいと思って、妊娠検査薬を使ったら、案の定ビンゴだった。
元少年は諸手を挙げて喜んだ。チラリと、あの男の事が頭に思い浮かんだが、最後にあの男とエリが会ったのは、かなり前だったので、心配ないのだと思い直した。父親は紛れもなく、自分なのだ。
元少年は、自分の母親に報告をした。最近白髪が増えたと嘆いていたその母親は、大いに喜んでくれた。孫が出来たのだ。嬉しくないはずがない。
後で父親にも報告すると元少年の母親は言った。元少年は頷いた。父親も間違いなく喜んでくれる。元少年は二人に、孫の顔を見せてあげられることを誇りに思った。
本当は、エリの両親にも、報告してあげたい気持ちはあった。しかし、エリは両親と絶縁状態だったので、あまり望まれないかもしれない。エリが居なくなっても、ろくに探そうとしなかったくらいだから。
元少年は一軒家の自宅に戻った。エリと住むために購入した中古の邸宅だ。諸々含めてローン地獄に陥ったが、それを背負ってこその、一家の主だろう。
元少年は、家の中に入った。
廊下を進み、奥の扉を開ける。
そこにはコンクリートで造られた階段が下へと続いていた。
それを降りきると、音楽室の入り口に備え付けてあるような、防音加工された分厚い扉があった。
元少年は、愛する人に、自分の母親が喜んでいたことを伝えるため、扉を開けた。
月日は流れる。
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