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よく見たらこの人、赤の襦袢に白絹の着物。襟がちょっとだけはだけて白い肌が見えそうだ。しかもどんだけ歩き散らしたのか着物の裾真っ黒になってる。
裾から、あ、足が見えてる。白いよ、太股が。
目のやり場に困るって。
マジどいてほしい。
「かな、という名は気に入りませんか?」
「それ以前の問題です。ここはどこ?あなたは誰?俺は何でここにいる?」
「貴方に恋し、貴方に全てを捧げ、貴方に振り向いて貰えずに畜生道に落ち、地獄の責苦にあっている、かなです」
何言ってんだよ、ふざけるな!
「カナは地獄になんかいない!俺の帰りを待ってる。いい加減にしろ。ここはどこだ!俺は帰る!」
花菜と同じ顔で地獄を語る女。
悲しげな、消えそうな、恨みと痛みで蒼白になっている、そんな顔は見たくない!
花菜にはいつだって笑っていて欲しい。
いつだって。
そうか。
ここは夢の中。彼女は俺がさっき広げていた写真集から抜き出てきた鷺娘。
顔が玉三郎じゃなく花菜に入れ替わっているんだ。
この場所は、鷺娘の舞台か。
悲しげな瞳が俺を見つめる。
その中に花菜が時折見せる色と同じ色を見つけてしまう。
その瞬間気づいてしまう。
花菜の中にはまだあの男がいる。悲しみに引きずられて、消せないでいる。
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