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赤石は額に何か温かいものが触れたような、そんな気がして顔を上げた。が、教室は“最初と同じように”自分以外の人の姿はなく、静かなまま。
額の感覚もだが、誰かに呼ばれた気もしたのだが…と赤石は首を傾げた。首を傾げながらそのまま時計に目をやると、時計の針は五時をさしているのに気がついた。
「もう五時か…。一応一段落はしたし、そろそろ帰るか。」
そう呟き、教卓に顔を向けなおそうとした赤石の瞳があるものを捕えた。
…いつからだろうか。教卓の右上―先ほど少女が立っていたところに―ポインセチアの花が一本、置いてあった。その花を見た瞬間、赤石の目元には涙が、頭の中には一人の少女の姿が浮かんだ。
-なぜこの花がここに?
この花は彼女を思い出してしまうから、見るのを避けてきたというのに。
『修君』
文化祭やら体育祭やらイベント事が大好きで全力を尽くしていた彼女。
『修くーん』
文化祭では劇の主役をするがために遅くまで学校に残って自主練等をしていた彼女。
『しゅ~う?く?ん!』
リーダーシップを発揮してクラスをいつも引っ張っていた彼女。
…そして-・・・
『ーーーーーー!!!』
置いた覚えのないこの花がここにあるのは“偶然”だろうか。偶然に決まっている。それなのに、偶然だと赤石にはどうしても思えなかった。
額の感覚と、自分を呼んだ声。そして、この花。偶然にしてはあまりにも出来すぎている気がして。赤石は花を手に取り、胸元で強く握りしめた。彼女がここに来ていたのだ、そう思えてならなかった。目から溢れる雫と、声にならない泣き声。
ポインセチアの花言葉は“祝福”
彼女――高校生の時に亡くなった、赤石の幼馴染みが大好きな花だった。
夕陽が赤く照らし、文化祭の余韻が残り、空気がどこか明るい教室に、赤石の泣き声だけがその場から浮き出たように悲痛に響いていた。
FIN
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