1人が本棚に入れています
本棚に追加
「わたし……前の会社で……会社の人間、全員! に……虐められて、たん、です!」
急に、息も絶え絶えに、それなりの声量で激昂し始めた鳥居さんに固まるのは私だけでなく、周りの同僚も振り返って固まっています。
「え……?」
「私の携帯をハッキング、して! ……会社の皆が、私の携帯画面やメールを盗み見て、陰で笑って馬鹿にしてたんです!」
私の首筋に冷たい汗が流れました。初めから疑って掛かる気はないが、虐めの内容があまりにも突飛である。そもそも携帯をハッキングするスキルを持った人口は日本にどれくらいいるんだろう。少なくとも私の周りには皆無である。精神を病んでいらっしゃるのではとの懐疑の思考が弾き出されるまでにそれほどの時間は要しなかった。
しかし、無駄に彼女の意見を否定して暴徒と化されてはたまらないと言葉を慎重に選ぶ。
「そ、そうなんだ。それが本当だったら酷いね。当時の上司とかに相談はしなかったの?」
「上司も皆、全員! 私を、虐めて楽しんでたんです。証拠を固めて訴えようと思っているので、ハッキングされていた証拠が欲しいんです。ウィルス、とかですか? どうやってるんでしょうか?」
人並知識の範囲ではないので、当然、私には分からない。
「うーん、私にはわからないなあ。多分、携帯をハッキング出来るような人は多くないと思うよ」
暗に、そんなスキルを持った人間は滅多にいないので、勘違いではないかなと言ってみたが、今思うと何て怖い博打を打ってしまったんだと思う。
当然、納得しない鳥居さんは知識を求めた。
「土田さんは、ハッキングされたことないんですか?」
あるわけがない。過去にあったとしても今日まで気付いていない。
ここで、教官から五分休憩終了の宣言がなされた。
私は教官に心から感謝し、冷たいようだが、今後、鳥居さんは刺激せず、接触は挨拶ぐらいの最低限にしようと心に誓った。
これが<鳥居さん>との出会いである。
最初のコメントを投稿しよう!