第8話 最悪のダンジョンは扉の向こう側に

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現実を仮想化する。 簡単には言ったが並大抵の感覚では駄目だ。身体が現実世界であることを認識し始めた瞬間に、「ゲームだ」と思い込んでいた身体は現実世界に対して拒絶反応を起こす。 ならどうすればよいか。。 人間は視覚に依存する生き物だ。だからVR だなんて物を人間は作り出したのだ。 VRとは、virtual realityの略だ。平たく言えば、専用の機器をプレイヤーが装着し、その機器から映し出された映像や音響の効果により、仮想空間にいるような体験ができるのがVRの特徴だ。 ならば、、、 視覚さえ、異世界にいるような雰囲気にすれば大丈夫なのでは? 俺はそう思い、亡くなった親父の部屋にあったスノボー用のゴーグルを持ってきて装着してみる。視界が一瞬にしてオレンジ色に染まった。 「まぁ、現実世界がちょっと違うように見えているから・・・これもまた『異世界』の分類と思えなくもないかな。」 抜かりはない。さすが、ナーガやイオマンテから勝利を奪い取った俺だ。自分でも言うのは恥ずかしいが、かなりの策士だと自負している。 ゴーグルは重すぎず、且つ、前方も見えるため丁度良かった。まさに簡易に造り出した異世界だ。 外へ繰り出す気持ちがやっと固まった俺は、ゆっくり玄関のチェーンを外し、まずは顔が出せるくらい玄関を少しだけ開け、周りを確認した。 「歩行者ゼロ。異常なし。前方オールクリア。」 外に出た。 が、暑い!!なんだ、この暑さは! これじゃ、5分ともたない。太陽ってこんなにも熱を放射してたっけ!?汗が噴き出しては止まらない。 やはり、ニートは月光浴に限る。 あの優しい灯りこそが、俺たちにとってはベストな光だ。 アイテムバックから扇子を選択し左手に装備した俺は手動で人工の風を造り出した。 「ないよりかは・・・ましか」 ランニングシューズに、ジャガーのマークをあしらったジャージ上下。左手には扇子を持ち、顔にはスノボーのゴーグル。 いつもなら、両手はコントローラで塞がっているので、何も持っていない右手がやけに寂しく感じた俺は、とりあえず家の鍵を持つことにした。 「高校の初めの方は普通に日中人間だったのにな・・・」 あの頃の俺は他人のようにすら感じる。今の生活が嫌いなわけでもない。 などと考えながら歩いていると向かいから人間の声が聞こえてきた。男・・・と女のつがいのようだ。。
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