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「最悪だ」
おもわず思っていた言葉が口から漏れた。当初の予定から30分ほど遅れてしまう計算だ。30分も待ちぼうけを食らっているリコは、もう帰っているかもしれない。
そりゃそうだ。顔も知らない、素性すらわからない俺と待ち合わせをしているんだ。俺みたいなゲームを通じてでしか会話をしたことのない俺への信頼は皆無に等しいだろう。
俺が待ち合わせ時間に来ない瞬間に「あ、私騙されたんだ・・・」と思ってすぐにその場から離れているだろう。
「ママ。あの人変な格好してるよ?」
「しー!駄目。目を合わせたらいけません」
ははは。俺の事だろうなたぶん。他の人と違って、人目につくくらい俺は異常者なんだろうな。
やっぱり俺みたいな人間が現実世界にいたらいけないタイプの人間なんだ。誰からも必要とされず、疎まれ、蔑まれ、卑下される。
俺が数年間培ってきた回復魔法はこの現実世界では、なんの役にもたたない。偽りの力だ。今だって、電車が俺を京都駅まで運ぼうと動いているだけで、実際俺のしたことなんて、切符の使い方を間違い、電車の乗り間違いをしたくらいだ。
『一人で何もできてなんかいない』
無知。
この世の中を何も知らない。知ろうとさえしなかった。社会が俺を拒絶したんじゃない。自分から壁をつくって拒絶したんだ。
無力。
この世の中でなに一つ俺は努力をしようとしなかった。避けることだけを考え、自分が傷つかないように逃げてばかりいた。
総ては俺が蒔いた種だ。
自業自得。正しくその言葉のとおりだ。間違いなく俺自身がこの世界で成長することを閉ざしていたんだ。
こんなレベル0の魅力の欠片もない俺と会ったところでリコは喜ぶはずがない。むしろ、残念に思うはずだ。
「帰ろう」
純粋にそう思う。このまま現地に向かわない方が俺やリコの為になる。会って何かが始まるわけでもない。むしろ悲しくなるだけだ。
「ママ。あのね、」
「どうしたの?」
もう逃げ出したい。そう思っていたときにさきほどの親子の会話がまた耳に入ってきた。
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