第9話 院リコ OFFなのに戦場へ

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「ママ。歯医者さん行くのやだよ」 さきほどの子どもが泣きながら言った。おそらく虫歯が出来たので治療に行くための移動中のようだ。俺も小さいときは歯医者に行くの怖かったな。よく親父に駄々こねたっけ。 すると母親が子どもに話しかけた。 「渉。歯医者さんは、痛い、痛~い虫歯をやっつけてくれるのよ」 「いい。僕一人で治すから」 「ふふ。虫歯って自分では治らないのよ。どうして歯医者さんに行くかわかる?」 「ううん。わからない。」 「歯医者さんはね、ヒーローのようにピンチの時に助けに来てはくれないのよ。」 「じゃあ弱いの?」 「ううん、違うの。頼られた時に全力で治せるように、じっと待ってるの。『痛い、痛いよ』って困っている人がいないかを探すんじゃなくて、困っている人が『助けて』ってお願いされたときに活躍するのよ」 「凄い!僕が大好きな消防車みたい!!」 「そうね。渉が『助けて』って言えば、お願いに必ず応えてくれる。それが『お医者さん』なのよ。難しい言葉で言うと『信頼』しているからお願いするのよ」 「しん・・・らい?」 「そう、信頼。だから渉も勇気を出して助けてってお願いしに行こうね」 「うん!僕怖くないよ」 俺は唖然として、瞬きをするのさえ忘れていた。ヒーラーとして大事な心を忘れていた。 俺の親父は、交通事故に会うまでは開業医として地域の人たちから頼りにされていた。 治療だけじゃない。薬の服用についての相談があれば他所の病院で処方された薬についてもアドバイスをしていたし、親と喧嘩して逃げてきた近所の子どもを保護してあげたこともあった。 頼られたら、全力で応える。 そんな親父が格好いいって思ったから、俺も医者になろうって子どもの頃に思ったんだ。 所詮俺は医者じゃない。ただのゲームの中でヒーラーをしているプレイヤーだ。 ただ、 人の役に立ちたいって思ったから、俺はヒーラーというジョブを選んだんじゃないのか? 俺は多くを救える立派なヒーラーじゃない。だからせめて目の前にいるリコや、ソネルの力になりたいってそう決意したんじゃないのか。 「医者が諦めたら駄目・・・だよな」 俺を必要としてくれてるリコとちゃんと向き合わないと。
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