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「ねえねえ、何してるの?君、可愛いね」
その子に話しかけた男がいた。俺よりも先に。
高身長で清潔感はあるが、話し方からして明らかに口説きなれてるようなチャラい印象を俺は受けた。
声をかけられた子は、嬉しそうに言葉を返していた。
「あ、あなたが院長?やっと来てくれた!もう、遅いよ!」
聞き覚えのある声。ゲームの中とはいえ苦楽を共にしてきた仲だ。聞き間違う筈がない。
ってか、院長って聞いてる時点でほぼ確定だろ!屋外で診察をするクリニックなんて聞いたことがない。
「あ?・・・あぁ。そうそう、俺、院長さ。んで、何処いく?カラオケ?それとも休憩行っちゃう?」
はぁ?
はぁああああ!?
ちょっと、待てよコラ"!!お前絶対話しを合わせただけだろ?お前誰だよ、俺が院長だ!!本物だ!
お前みたいなヤブ医者級の胡散臭い野郎は今すぐ廃業してしまえ。
沸々と怒りが心臓から沸き上がり、喉を通り越し今にも口から爆発しそうだ。なぜ、会話が出来た瞬間からリコの腰に手を回す?汚い手で俺のリコに触るな。
「わえっ?カラオケ?きゅーけい?ソネルちゃんの話しなきゃ」
「あーそうそう。とりあえず行ってから聞くわ」
男は、へらへらしながらリコを抱きよせつつ歩き出そうとしている。
偽院長の押しの強さに戸惑っている様子のリコ。
おい、偽物。
お前にリコの何を知っている。リコ自身は自己中だと感じているがそうではない。しっかりと人を想い、行動できるタイプの人間だ。
そして、仲良くなったソネルのことに関する相談を俺に持ちかけてきたのだ。
お前に何がわかる。
そして俺は人と話すのが苦手だ。会話をできる自信なんてない。拒絶されるのが怖い。話しかける勇気さえない俺は臆病者だ。
でも、
ここで退くようじゃ『誰かを助ける資格』なんてない。
腹をくくった。迷いはない。
俺は、偽院長とリコに近づき大声で叫んだ。
「モモンガぁああああ!!」
祇園四条駅付近にいた人全員の時が止まった。確実に止まった。偽物院長と、リコも唖然として固まった。
あれ?声量を間違ったようだ。二人だけに聞こえるくらいのつもりで叫んだんだが、勢いあまって全力で大声を出してしまった。
その結果、都会のど真ん中でスノボーのゴーグルを装着した人間がいきなり「モモンガぁ!」と叫んだのだ。
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