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7月の最終日が夏祭りだった。
はじめは加奈子と2人で行く予定だったが正樹くんが入院した時、病院の談話室で夏祭りの話題になり、今年は正樹くんたちとみんなで行くことになった。
「コマリ、綺麗よ」
あたしの夏祭りデビューの為に母が浴衣を準備してくれた。
あたしには少し大人ぽい落ち着いた色合いの地色に鮮やかな花が描かれていた。
地色はグレーと光沢のある濃い色のグレーとの細い縦じまのもので裾と袖のところに青と赤の可愛らしい、ひなげしの花が散りばめられていた。
帯は黒地に浴衣と同じひなげしの花が描かれた物だった。
母の演出で大人可愛いいし上がりになっていた。
髪もアレンジしてもらった。
肩ぐらいまで ある髪をサイドにまとめて緩いみつあみにして、くるりんぱを2回程繰り返して最後に着物の柄と同じ白いひなげしの花をさしてもらった。
母は自分の仕上具合いにすっかり満足して、父に送ると言って写メを大量に撮っていた。
あたしは・・これからこの姿で外に出ることを考えると・・しかも・・・正樹くんと会うなんて・・・・緊張と恥ずかしさで頭が一杯になってしまった。
周りの事なんて何も目にはいらない・・う~・・どうしょう・・・行くの止めようか――
「コマリ、もう出掛けないと、時間、間に合わなくなるわよ――ん?」
あたしの顔色に何かを察した母は有無を言わさず・・あたしを外に放り出した。
「渾身の出来を無駄にするな」・・そんな言葉を添えて。
あたしは仕方なく夏祭りの会場へ足を向けた。
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