第五章

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 いよいよ文化祭が明日に迫って来た。 みんな気分が高鳴っているのか、いつもより教室の雰囲気が騒がしい。 担任の坂井先生がイベントについて説明している。 「……と言う訳で、今年のライブは声優のミカリンがゲストです。今年一番の  観客動員数を達成した映画『君の沖縄。』にも出演して注目度が急上昇中  の声優さんです。皆さんお楽しみに!」  「おー!」と歓声が上がり笑顔の担任とは対照的に、溜め息が出るミサキ。 今頃他のクラスのタンゴも溜め息を付いていることだろう。岳の席を見るが、 岳はロキ達と闘った翌日から学校を休んでいる。  昼休みになるとタンゴがミサキの席に来た。 「今日もう一回岳の家行って見ようと思うんだ」 「判った。ホントに明日どうしたら良いんだろうね……」  溜め息を付く二人。明日ライブがあると言うのに解決策が見つからないまま 日にちだけが過ぎてしまった。『JUDGEMENT』で貯めたムーガも岳の 父親を助ける為に使うので、文化祭を中止させられない。 おまけに岳が学校に姿を見せない。心配して何度か家まで行ったのだが、 「誰にも会いたくない」と拒絶されてしまっていた。 「どうしちゃったんだろう岳。心配だな~」  せっかく目標にしていた6勝をあげて4000ムーガを越えたと言うのに、 岳は難易度AAAの対戦クイズには挑戦したのだろうか。  岳の家に着いてチャイムを押す。母親の由香里がドアを開けた。 「あら、二人共。岳を心配して来てくれたの?」 「はい。明日文化祭なんです。岳君どうですか?」 「それが相変わらず部屋に引き籠ったままなのよ。食欲も無いみたいで  ご飯に呼んでも降りて来ないし」 「すみません、岳君の部屋に行って見ても良いですか?」 「ええ、良いわよ」  ミサキとタンゴは「失礼します」と靴を脱ぐと階段を登った。 「おい岳、どうした? 何かあったのか?」 「岳、ちょっと部屋に入れてくれないかな?」  声を掛けるが返答は無い。タンゴがドアノブをガチャガチャ回そうと するが、鍵が掛かっている。ミサキが替わってグイッと力を込めると、 バキッと音がしてドアノブが壊れた。 「あ、開いちゃった。後で弁償しないと……」  バツが悪そうに舌を出すミサキ。ソーッと部屋に入る。岳の姿は無かった。
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