第五章

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 ふいに辺りが暗くなり雪が降り始めたと思ったら、吹雪になった。 一気に体温が奪われて歩みも遅くなる。強烈な眠気に襲われて必死に 抵抗したものの、まぶたが重くなって来た。  岳は気付いていなかったが、冥界の一日は現世の三日分になる。 このまま凍死すれば岳は失踪者として扱われ、ダンタリオンは「革命」 に必要なアイテムを手に入れる……ハズだった。  その時だった。 「岳君、ココに居たら危ないよ。目を覚まして」  聞き慣れた心地良い声がした。紛れもないミカリンの声。 「あれ? タンゴがいるのか?」 「違うわ。ワタシ、美香。牧野美香よ」 「えっ」  目を開けると女の子が馬に跨ってすぐ側に立っている。 「岳君いつも素敵なポエムを有難う。さあ、ココは危険よ。ワタシの家に  案内するから付いて来て」 「ホントにホントにミカリンなの?」 「フフフ、そうよ」  余りの驚きで一気に眠気が覚めた。唖然と立ち尽くしているとミカリンが 「さあ早く」と手を差し出した。 その手を握り締めて馬の背に跨る。乗馬は初めてだが身体が風船の様に 軽くてスッと乗れた。 「しっかり捕まっててね」  ミカリンの腰に手を回して振り落とされない様にギュッと力を込める。 長い髪の先が顔に当たってラベンダーの良い香りがした。  「ココはどこなの?」 「怖ろしい悪魔達が住む地域よ。ダンタリオンは岳君を眠らせて魂を壺に  入れて地獄の炎に投げ込むつもりだったの。「革命」を起こして序列を  逆転させる為にね」  ピシリと鞭を入れると馬がスピードを速める。程なく雪が止み晴れ間の 広がった草原を駆ける馬。岳は目の前の少女が本物のミカリンなのかと まだ半信半疑だった。  「さあ、ここよ」  一軒の藁ぶき屋根の大きな農家に辿り着いた二人。家の前には畑が 広がり、少し離れた所には大きな森がある。ミカリンはフワリと馬から 降りるとポンポンと馬の鼻面を撫で、ポケットから人参を出して与えた。 岳も同じ様にフワリと降りて辺りを見渡した。 「あのさ、キミは本当に本物のミカリンなの?」  少女は岳の質問に答える代わりにポエムを口ずさんだ。 「あー嫌だ嫌だ嫌だ。もうすぐテストが嫌だ。  あー誰か誰か誰か。ボクの代わりに問題解いて  名前だけボクにして下さい」  それは岳が投稿した作品だった。ポエムと言うより只の願望みたいな ものだが、それを聞いた岳は目の前の少女がミカリンだと確信した。
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