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すてきな人形
「あー、至福のときなり」
如月帆奈は、ほうっと息をついた。
彼女は、古びた書店にいた。書棚に囲まれていた。ホコリの積もった木目調床材の上に、大の字で寝そべっていた。
漆黒の長髪と、派手目の真っ赤なスカートが、左右に広がっている。
「絵になるね」
「え?」
「絵画みたい、て言ったんだ」
その言葉に、帆奈がひょいっと顔を上げると、カウンターのむこうに座る、仁木健司が見えた。
カウンターの上には、大量の本が積んである。分厚い洋書がほとんどで、見た目が洒落ている。
その本の合間から、タイプライターに向かって伏せた顔がのぞいている。それだけでも、精悍な顔立ちがハッキリとわかる。
「ヌードのほうがよかった?」
いたずらっぽく、口にしてみる。
「えっ」
「あたし。そうしたら、見事な絵にならない?」
もとどおり上体を倒し、天井を見上げる。目に入るのは、アンティークなシャンデリア。
「いや──そのスカート、よく似合ってる」
「ふふん、照れちゃって」
「照れ隠しじゃなくて、どちらかというと、お世辞」
「ふーんだ」
いいんですよう、どうせあたしはお洋服を際立たせるためのマネキンですよう、とゴロゴロしてみせる。
「服、汚れない?」
「汚れは漂白すればいいの。洗濯機に仕事させなくっちゃ。買いたてであるからして」
「何キロ?」
「えっ、あたしの体重? やだあ、もう」
「や、洗濯機の容量」
「なあんだ。どして?」
「その、ふくらんだスカート。入るのかなって」
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