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一発必中の問いだったが、とくべつ場の空気が変わった感じもしない。すべては清浄なままだ。
発したものも、受け取ったものも。乱れることなく、平常運転をつづけている。
帆奈は、シャンデリアに視線を置いたまま。
顔を動かし彼の表情を見るべきか、悩んでいた。
「……すごいね。前置きとか様子見とか、省略した質問だ」
「効率重視」
「時間は、あるんだけどな」
クスクス笑い。
思いきって彼に目を向けると、まったく、帆奈を見てもいなかった。それが、ちょっぴり、おもしろくない。
「うーん」
彼は天井を見上げている。
帆奈とおなじように、意味もなくシャンデリアの細部を観察しているのかもしれない。
「それ──答えなくちゃいけない?」
「できれば」
「ううん。ねえ、それよりもさ、洗濯機の容量の話をしよう」
「答えたくないってこと?」
「いや、ええと、そうだなあ」
「つまり?」
「つまり、うまく言葉にできないんだ」
「もし警戒してるのなら、ボイスレコーダーとか、しかけてないから」
「信用してるよ」
「先生。どうしてあの子を殺したのか、教えて」
「困ったな……」
沈黙。彼が目を閉じた。
なにを考えているのだろう。世界の、あいまいさについて、とかだろうか。
やがて、その目が開いて。
「先生」
と、彼は言った。
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