赤ずきん

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「リアルなメルヘン……ねえ……あの、何かおススメはありますか?」    その言葉の意味はわかったような、わからないような……いや、たぶん真の意味では理解できていなかったろうし、別にメルヘンに関して詳しいというわけでもなかったので、俺は自分で見て回るよりも先にあっさりそう老婆に尋ねた。 「ああ、そうさね……今日のおススメはこのペロー版の『赤ずきん』かね。一般に知られてるのはグリム版のストーリーだが、ペローのはそれよりも古い形のお話だよ」    その問いに、老婆店主はわずかに黙考した後、そう言いながらカウンターの下より一冊の本を取り出し寄こす。 「赤ずきん……ですか」  よく書店で目にする廉価版とは違う、豪奢な装丁のお値段張りそうな書籍ではあるが、まあ、そうは言ってもよく知った『赤ずきん』である。 「………………」  その内容の割には妙に分厚いと思う本を皺だらけの手から受け取ると、俺は老婆の前でパラパラと捲ってん飴読みしてみた。  やはりゴシックな装丁とは裏腹に、分厚くはあるがイラストも多く、字も大きな絵本のような童話本である。  ただ、確かに老婆の言った通り、話の筋はよく知る「赤ずきん」とは少し違っていた。  赤い頭巾をかぶった少女がおばあさんの家へお見舞いに行くことになり、道草してる間に先回りしたオオカミはおばあさんを食べ、そのおばあさんに化けたオオカミに自身も食べられてしまうまではやはり同じであるが、知ってる話では猟師によって最後はオオカミの腹の中から助け出されるところ、こちらでは食われたままそれっきりである。  そのけしてハッピーエンドでは終わらない、身も蓋もない話なところが古風といえば古風なのだろう。  フランスの詩人ペローの作ったまだまだ粗削りな童話集を、グリム兄弟がさらにこども向けのメルヘンにアレンジしたというわけだ。 「ま、まあ……なんというか、今まで聞いた話とちょっと違って興味深くはある……かな?」    多少おもしろくはあったが、だからと言って〝リアル〟かといわれればそれほどでもなく、だが薦められた手前、「あんましでした」と言うわけにもいかず、俺は考えた末にそんな当り障りのない感想を答える。
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