赤ずきん

5/6
前へ
/6ページ
次へ
 た、確かにそうだとは思うけど、だからってそんな猛禽類みたいに目を光らせなくても…ってか、そんなことしようと思ってもできないだろ? 「…て、言う先からなんか手もデカイよ?」  思わず心の声を実際に口に出してしまった。  なぜならば、耳と目に続き、先程、本を手渡してくれた老婆の皺だらけの手までが肥大化していたからである。  いや、大きくなったばかりではない。  女性の、しかも老人だというのに妙に毛深く、その爪は着け爪なんてもんじゃないほど長く鋭く尖っているのだ。 「ああ、この手かい? これはたくさんの本を一度に抱えて運べるようにだよ。一種の職業病だね。長年、そうして重い本を運んでたら、こんなに筋骨隆々になっちまったのさ」  なるほど。それで老婆とは思えないほどこんなに太く……って、んなわけあるかい! しかも、そんな爪尖らせてたらむしろ邪魔だし、商品の本を傷つけてしまうだろう?   またしても、さも当たり前と言うような顔で説明する老婆に、俺は心の中で密かにボケツッコミを入れてしまう。 「……え、く、口まで?」  だが、不思議な老婆の変化はそれだけに留まらなかった。  店に入った時にはいたって普通に見えていた老婆の口が、今は耳元まで大きく裂け、そのパックリ開いた赤い割れ目の隙間からは鋭く尖った白い牙が恐ろしげに覗いている。  加えてメガネのちょこんと乗った鼻先も前方へと伸びて、とても人間のそれとは思えない、肉食獣のような二等辺三角形に頭部も変化して見えるのだ。 「…………ど、どうして、そんなに口も大きいんですか?」  〝それを言ってはダメだ〟と心の奥底で何かが警戒信号を発していたが、俺は好奇心の方が勝って……いや、違うな。正確なところはよくわからないが、どうしてもそれを訊かなくてはならないような衝動にかられ、気づくとそんな言葉を恐る恐る口にしていた。 「この口のことかい? それはねえ……」  その問いにも、老婆店主はそれまで同様のなんらおかしなことはないというような調子で答えはじめるが、今回はどこかもったいつけながら、そして、その大きな目の奥に冷たく静かな鋭さを湛えながら、俺の顔をじっと見つめる。
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!

22人が本棚に入れています
本棚に追加