旅の途中

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旅の途中

 いったい日本に駅がいくつあるのかというと、およそ一万あるという。  ではその一万の内訳はどうなっているのだろうか。日本という国は非常にその国土が縦に長い。南国もあらば北国もある。ちょうど小学生の時に雪国の暮らしと南国の暮らしを比較して学ぶ時間があるが、どうしても駅にも気候や土地柄故の差異が出てくるのだ。これを空間的な変化だと誰かが言うなら、時間的な変化というものもある。もっと平たく言えば、デザインの流行り廃りがあるのだ。近代的かつ画一的な風貌をそろえた駅もあるだろうが、明治の頃より大事にされ続けてきた駅だってある。たとい一万の駅で似たものが散見されたとしても、それは一万のうちの一つとしてしっかりカウントされているのだ。どこをとっても同じというものはないはずである。  要するにそれは個性である。双子にも微妙な差異があるのと同様に、一見しただけでは判別の付かない駅でも、どこかしかに違いを見出すことができるはずなのだ。しかしそれは鉄道を、駅をこよなく愛しているものにのみ見出せるものかもしれない。所詮「一般人」には「おもしろい駅」でないと注目してもらえないのだ。  そういう視点で見たとしても、まことにこの北国の駅はおもしろい、不思議なものがおおいのではないか。石造りのサイロを思わせる駅もあれば、いらなくなった貨車をちょっといじって、ちょこなんとホームの端においたものだってある。それならまだ上等な方で、窓すらない物置がぽつねんと草むした木の板の上に乗って、駅を名乗るものだってある。地域に愛される駅もあれば、朽ちて傾いでしまった、廃墟然とした駅もある。  私の手元には今、上幌(かみほろ)線という山峡の一路線の駅、問兜(といかぶと)駅の時刻表があるから、これをここに掲載しておこうと思う。これはこれから話す瓦木紗綾の探偵譚に非常に重要な役割を果たすのだから。
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