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「あ、その本、懐かしいっすね」
夕時の喫茶店は空いていた。
じゃあそれまであそこで待ってます、と何も考えず書店の目の前のこの喫茶店に入ったのだが、古風なこの喫茶店が俊介はすぐに気に入った。
仕事を終えた先輩と合流し、ちょうどお腹もすいた所だったので2人でナポリタンを注文した。それを待っている間、先輩の空いた鞄からちらとそれが見えたので俊介は思わず口にしてしまった。
「あぁ…これね。最近また読み始めてさ」
「わざわざ買ったんすか」
「まぁね…」
ひとこと言っては、先輩からもひとことしか返ってこず、何となくまた気まずくなって、俊介は慌てて話題を変えた。
「ていうか、先輩、なんでこんな所にいるんですか?大学出て九州の方に行ったんじゃ…」
結婚したんですか、と聞きかけて辞めた。ちらりと先輩の左薬指に目をやる。指輪は…ない
。
「転勤あって」
「九州から一気に関東って大変すね 」
「佐藤君は今何してんの?」
「え、俺ですか?俺は…まぁ出版関係というか…そんなとこです」
「へぇ…すごいね。大学はこっちだったよね」
「ですね。学生の時からずっと同じアパートに住んでます」
「なんで。お金ないの?」
先輩がくすくすと笑う。
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