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なるほど、店が丸ごと
冷やし本屋さんになっている。
陳列も、手に取りやすいように
目線には、目立つ雑誌が並び
ぐるっと一回りで
ありとあらゆる本が見て取れ
食指を動かされる。
親切に買い物カゴも常備され
生けすのような冷凍庫も
重いドアなどなく
広々としている。
店内は、混んでいた。
私はいつも買っている
「水」に関する本を取ると
レジに並んだ。
「作りたて」の文字が目に入る。
そうか、そういう時代になったのだな
本も出来立てホヤホヤを
簡単に手に入れることができる。
レジで支払いをしたが
カバーは付けてくれない。
代わりにレジ袋に入れてくれた。
外へ出ると、熱気の空気では
呼吸するのがやっとだった。
週明けの月曜日、
今日も暑い中、駅の階段を
のろのろと降りていった。
こんな日の外出は
控えるのが当たり前だろう。
街は、人の気配がなくひっそりとしている。
「冷やし本屋」の旗が
軒先きでゆらゆら揺れていた。
誘われるように店内に入ると
最高に冷えていて、
一気に汗が引いた。
むしろ、寒いくらいで
店番のおじさんは、
白い長袖長ズボン、
ダウンのスキーウェアみたいな
出で立ちだ。
無言でいくつかの店内モニターを
見つめていた。
陳列棚を目にしながら
凍りつくような本ばかり。
しかし、少しず つ奥へ行くと
暖かさが感じられ
ポカポカした冬の陽射しのようだ。
皮膚に突き刺さるような熱気に
私は足を止めた。
「いつも熱いので、冷やしてる」
と背後で声がした。
目眩と熱で朦朧とし、
からだがぐらぐら揺れた。
からだが崩れていく中で
目の前が真っ暗になると
遠くから本屋さんのおじさんは叫んだ。
「それは、炉心なんだよ」
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