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「幼稚園の時、僕は一度だけ告白された事がある」 「へえ。悪趣味な人もいたものね」 「全くだよ。しかも彼女、無愛想に『お嫁さんにして下さい』とだけ言いやがる。理由も何も言わないんだ。変人だ、と思ったね」 「違う。ちゃんと、かっこいいからって言ったわよ。私が男の子に虐められてるのをあなた、助けてくれた」 「それだけじゃ分からないし、いきなりお嫁さんはないよ」 「よ、幼児の発想なんだから、仕方ないじゃない! あなたこそ、どうしてそれから一度も話してくれなかったのよ」 「はーやっぱり、約束は覚えてないか」 「約束?」 「実は秘密兵器はもう一つあってね」  僕は懐から一枚の紙を取り出す。何回も折り畳まれていてかなり厚い。広げるとそれは大きな画用紙になった。そこにはクレヨンで拙い文字が書かれている。 「これ、覚えてない? 読み上げた方が良いかな」  そこで三木さんがハッと振り返る。僕の手元を凝視して逡巡。 「あ」  そして、彼女の顔が真っ赤に染まった。三木さんが焦ってこっちに向かって来るが、もう遅い。 「誓約書。ユーキ君は大きくなったらシズクに告白する事。私は「お嫁さんにして下さい」と言う事。ユーキ君はオッケーする事。それまでは会わない事。ユーキ君大好き」 「のわああああ」  三木さんは顔を手で覆い、フラフラとよろける。終いには脚がもつれて、こけそうになった。  僕は彼女へ飛び込んだ。間一髪彼女を受け止めたが、ヘッドスライディングするような形になったので腕をかなり擦りむいた。
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