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「やめて、離れて!」
ぽかぽかと僕の禿頭を三木さんは殴る。リハビリしたての腕力では頭皮マッサージにもならない。
僕は何とか体勢を整え、胡座をかく。抱き抱えた三木さんは腕の中。図らずも、お姫様抱っこをしていた。三木さんの顔がこんなにも近い。確かに、彼女は生きている。温かい。涙が込み上げる。
「そ、そんなに見ないでよ」
「やっぱり、君は綺麗だよ」
「恥ずかしい事、言うな」
三木さんはぷいとそっぽを向く。
「三木さん」
「何」
視線だけで僕を見る三木さん。体勢的に上目遣いになり、僕の鼓動はさらに高まる。彼女も唇を濡らしたりして、緊張しているようだ。
約束を果たす時だ。もう十分過ぎるほど歳を重ねた。僕は大きく息を吸い込む。
「好きです」
三木さんは目を大きく見開く。今日三度目の告白にして、初めての反応だった。
すると、三木さんの顔はまたみるみる赤くなっていく。
「い、言わなきゃダメ?」
そんな風に上目遣いで言われたら承諾しそうになる。でも、ここだけは譲れない。
「君の言った事だ。誓約なんだろ?」
意地悪く言ってやると、三木さんは「うー」と困ったように目を閉じた。
「絶対?」
「絶対」
「断らない?」
「誓約だからね」
「私、おばあさんだよ?」
「関係ない。君は僕の愛した三木雫だ」
すると三木さんの目までが赤くなり、彼女のきめ細かな肌を一筋の涙が濡らした。
「私を、お嫁さんにして下さい」
「勿論、喜んで」
三木さんは瞼を下ろし、僕は彼女へ顔を近づける。濡れた彼女の唇は柔らかく、とても熱かった。
翌月僕らは人知れずひっそり挙式を挙げた。そして秘密兵器の28644円でささやかな新婚旅行へと繰り出した。
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