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「あなた、私の事好きって言うけど、それは何がそうさせたの? 神? ホルモン? 運命?」  高校の特別教室。幼稚園からずっと好きだった三木さんに告白して、返ってきた言葉がそれだった。神の悪戯でソクラテスにでも愛を告白したのか、と僕は自分の目と耳を疑ったが、どうも間違いなく目の前の相手は三木さんらしい。  能面へ僅かに血を通わせたような異常に白い肌。切れ長の目は時折鋭く、今がまさにそれであった。己を着飾らず、今日日は幼児もしないオッカパ頭、それでも彼女からは美しさが迸っている。なんというか、自分だけが知っているマニアックな漫画だとか、インディーズのバンドみたいな魅力が、彼女にはあった。彼女は間違いなく、僕の心寄せる三木さんである。違和感と言えば、いつも口数の少ない彼女が饒舌になった事くらいだろう。  であるならば、僕はとびきり粋な返答をせねばなるまい。今の言葉から鑑みるに、三木さんは僕に好意を寄せていない。悲しきかな、これは事実だろう。だが、嫌悪もしていない。こうして逆転の機会を与えてくれたのだから。  まだチャンスはある。
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