死体愛好会

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 坂口がこのようなバーが存在することを知ったのは少し前のことである。どうして、自分が目をつけられたのか分からない。ただ、会社の関係で葬式に出たあとの帰り道、死体愛好会を名乗る人に他言無用という条件でバーのことを紹介された。  酒代は決して安くない。けれど、それには亡くなられた方の葬式や火葬、埋葬を行う為の費用も含まれていた。ここに来られる人は選ばれた人だけのだ。悪戯に遺体を晒し者にする為の場ではない。  二人は酒を飲みながら、少女が大きくなっていたらどんな大人になっていたのか。想像を巡らせて、本当に惜しい人を亡くしたと思う。 「ところで、竹田さん」 「どうかしましたか?」 「今度、新しい会員を紹介したのです。同僚の山崎って人なのですが。彼も死者を弔う気持ちを持っている人です。ちゃんと、愛好会からも会員に認定されました」 「そうですか。新しい飲み仲間が増えることはいいことです。楽しみにして待っています」 「はい。その時は・・・」  半年後、新しく山崎という男が死体愛好会の会員として入会した。坂口と同じように路地を通りバーまでやってきた。 「竹田さんですね」 「はい」  今日も竹田は一足先にバーで酒を飲んでいた。彼が酒の入ったグラスを置くのは遺体が納められているガラスの箱。 「これで、三人が揃った訳だ」  竹田はしみじみにそう言うと、ガラスの箱の中を見た。箱の中に納められていたのは綺麗な顔をした坂口であった。 「まさか、坂口が亡くなるなんて思いもしませんでした」 「私も驚いていました。坂口は重い病気を患っていたそうですね」 「隠していたのか、私も知りませんでした」  坂口の訃報は竹田、山崎、双方にとって衝撃的なものであった。  死体愛好会の会員になった者は基本、一度はバーに遺体が送られてくるようになる。それもルールの一つであった。 「元々・・・」  坂口の遺体を前にして竹田はポツリと言葉を漏らす。 「元々、ここはこういう場所なんですよ。寂しい者同士が集まり慰め、交流する場。そして、心が癒される。私達のことを非人道的という人もいますが、世の中をご覧なさい。携帯やパソコンと向かい合って、その場だけで人間関係を築き上げている人達より、私達の方がずっと、人間らしい関係を築けている。そうだと、思いませんか?」
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