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 ショッピングモール内の、ゲームセンター横にあるフードコートで、男子学生の一団がゲラゲラと笑い声を立てていた。 「ありえねぇ。ぜってぇ、ありえねぇ」 「ありえなくったって、そうなったんだから仕方ねぇだろ」  すねたように唇をとがらせている相模原恭平は、少し長めの前髪を掻き上げながら、皆より低い目線を彼らと合わせるために、顎を少し上げた。 「まあ、恭平は小さいからなぁ」 「小さいからって、そんなふうにはならねぇだろ」 「ホントは、別の理由でフラれたんじゃねぇの」  彼らの前には食べ終わったハンバーグの包み紙や、ポテトの入っていた空箱などが転がっている。 「そんなに言うなら、いっぺん試してみるか」  じろりと恭平が皆を――幼馴染の桐嶋勝昭、三村重人、勝浦真、小西譲を睨み付けた。 「試すって、どうすんだよ」 「今度の日曜。俺が女装して現れてやるよ。それで、俺とデートしてみて違和感がなかったら、信じるだろ」 「まあ、なぁ」  勝昭があいまいに頷いて、横にいた重人を見た。重人は真に目を向けて、真はまだ残っているポテトをつまむ譲を見た。 「ん?」  譲がポテトから目を上げて、首をかしげる。彼の肩を、真が軽く叩いた。 「デートする役は、譲でいいだろ。身長差的に見栄えがすんだろし」 「ああ、そりゃいいな。恭平が高めのヒール穿いても届かないのは、こん中で一番背が高い譲だけだし」 「それに、譲が一番、恭平とツルんでるしな」  重人が同意し、勝昭もそれに乗っかった。 「彼女無しは譲だけだし。女と付き合った時の予行練習を、ついでにしとけばいいんじゃねぇか」 「そうそう。万が一、万が一だぞ。恭平が彼女にフラれるぐれぇ、可愛くなっちまうんなら、彼女持ちの俺らはデートしてるところを知り合いに見られちまうと、面倒だしな」 「俺らは朝イチで、女装した恭平がどんなもんかを見て、判断するってことで。あ! どうせならさ。俺らの彼女も呼んで、グループデートしちまおうか」  重人の提案に、勝昭がパチンと指を鳴らす。 「いいな、それ。そんで、恭平がずっと女に見えつづけたら、それ理由でフラれたってのを信用するって事で!」
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