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「いや、実は向こうの詰所隊長にこれ渡しといてくれよ。前の飲み会の御礼だって伝えといて」
来年度で定年の課長は、粗品と書かれた箱を渡してきた。
重さから、おそらく中身は缶ビールの詰め合わせだろう。
不正の仲介をしているような受け渡しだが、あちらの向こう側の相手なら、ただの御礼の品だ。
「また呑まれに行ったんですか。あちらに迷惑が掛からない程度にお願いしますね」
「わかってるよ。ただの付き合いだよ。こっちの缶ビールは、あっちでばか受けだからーー」
等と長々話を始めた課長に会釈し、次は拳銃金庫に向かう。
二階の警務課で、拳銃の出し入れを担当係長に頼むと、係長は奥から、俺の拳銃と細長い黒のバッグを取り出して来た。
「はい。拳銃といつもの。ヤマヨコは大変だねー。俺も島崎部長くらいの武道の心得と若さがあればヤマヨコに配属して欲しいんだけどな」
「なんなら、今からでも代わりますよ」
「無理無理。体がいくつあっても代わりが務まらないから」
係長から軽く流されたが、俺としては本心そのものだ。
そして、係長から拳銃とバッグを受け取った後、出入簿に 島崎 一哉
と氏名を記載した。
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