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 愛用のデスクに突っ伏して、雲越ほづみはありったけの悪口を心の声で叫び、没になったばかりのデザイン画に思いを馳せていた。  決して、悪い出来ではないはずだ。  十代向けのジュエリーを専門にデザインしている同僚の水谷より子は、ほづみの新作デザイン案をべた褒めしていた。  ゴールデンレトリバーを連想させる、元気溌剌とした若き営業マンの大友圭太も、相変わらずすばらしい仕事ですね! とにっかり笑ってくれた。  ジュエリーブランド《sparkle》の社長であり、後輩の氷室真継も、没にするのは勿体ないと頭を抱える始末。  デザインをした当のほづみに至っては、モチベーションを維持できずに、落っこちた崖の下でもんどり打っていた。 「そうだ、悪くないはずだ。そもそも、この俺のデザインを却下するなんて、余所から来たくせに生意気なんだよ」  四十を迎えたばかりの大人の発言ではないが、他に誰もオフィスには居ないので問題ない。 《sparkle》には、十代向けの女性向けシリーズの《straw》と二十代前半の女性に向けた《berry》の二つの生産ラインがある。  ほづみは、《berry》を担当するジュエリーデザイナーだ。     
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