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囓ったシュークリーム生地から、とろりとあふれ出してくる、バニラビーンズでざらりとした触感が特徴的なクリームを吸い出す。
疲れた脳に、糖分は最上の褒美だった。
「《Virgin》。四十歳の天木志保里を、処女にするデザイン」
長い間患っていたコンプレックスを美しく飾るための、ジュエリー。
(たしかに、今までのものじゃあ駄目だな。悔しいが、子供だった)
真っ白になったモニターを見つめ、ほづみがまさに最初の一筆を入れようとしたときだ。
呼び鈴が部屋に鳴り響く。
「誰だ、朝早くから!」
ほづみは苛立ちをどうにか押さえ、インターフォンのモニターのボタンを押した。
「おはようございます、ほづみさん」
爽やかな遼の声に、ほづみは反射的にボタンを押して通信を切っていた。
「なんで、来るんだよ!」
うんざりと、分厚い扉を背中越しに睨む。
「体調が悪いと聞いたので、出社前に様子を窺おうかと思った次第です」
少しこもった声が、悪びれる様子もなく答えた。
病欠を使ったが、本当の理由は遼に会いたくなかったからだ。
やけに生々しい夢を見せられた後で、どういった顔をして会えば良いのかわからない。
あの淫らな夢を、遼は知っているのか知らないのか。
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