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「唇を重ねれば、キスになるのか? アレは、事故だ。カウントされない。下着は、新品を買って返すから貸し借りなしだ。つまり、俺とお前の間には何もなかった」  我ながら、子供じみた返しだ。ドアの向こう側で、遼の笑う声が聞こえてくる。 「でも。ただの同僚が、セックスなんてしないでしょ」 「あれは、夢――えっ?」 「ええ、夢ですよ。とても淫らな夢。正夢のような夢。けれど、僕たちにとっては、本当といっても良いんじゃないかな」  ドアの前でたじろいでいると「開けてください」とノックされる。 「お前……本当に、夢魔ってやつなのか?」  強めにノックされるドアに、ほづみはイライラと息を吐き、ドアチェーンをつけたまま鍵を開けた。 「ちょっと、酷いな。そんなに警戒しなくてもいいでしょうに。外してくださいよ、チェーン」 「絶対に、嫌だ!」  外したら、部屋に入ってくる。ほづみは犬歯をむき出しにして、遼を睨んだ。 「怒らないで、ほづみさん。所詮、夢じゃあないですか。それに、僕とのセックス、気持ちよさかったでしょ」 「うるさい! うるさい! な、なんで俺に、あんなっ!」  ドアを閉めようとするが、向こう側からもドアノブを引っ張っているのか、びくともしない。金色のドアチェーンが、ほづみの命綱だった。 「言ったじゃないですか、好きだって」  湿り気を帯びた声に、背筋がゾクゾクと粟立った。     
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