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「夢魔とか、そんな絵空事、信じられるかよっ!」
「信じる、信じないは、ほづみさんのご自由に。何なら、夢の中で羽根でもはやしてでてきたっていいですよ。……そういうプレイも、楽しいかもしれないし」
怒りに震えるほづみとは対照的に、いつもどおりの涼しい顔をしている遼は、ご近所さんと爽やかに挨拶までしていた。
「本当は、夢でなく。ほづみさんを実際にこの手に抱きたいんですけどね」
「とにかく、黙れ。……人に聞こえる」
視線でチェーンを外すよう促してくる遼に、ほづみは渋々手を掛けた。
「お邪魔します」
「招いちゃいないぞ」
今すぐ帰れと睨むが、遼は素知らぬ顔でダイニングへと入っていった。
「おや、お仕事中でしたか。あぁ、コーヒーの良い匂い。僕にも一杯もらえませんか?」
「居座る気か?」
「ほづみさんが入れてくれないなら、キッチン借りてしまいますよ」
「入ってくるなよ! 大人しく座っていろ」
ミルクと砂糖を要求する遼に背を向けて、ほづみはお湯を沸かし始めた。
◇◆◇◆
(……どうしてだ。どうして、俺の家がオフィスになっているんだよ)
ソファーに座り、ペンを走らせる小気味いい音を背中に聞きながら、ほづみは入れ直したコーヒーを啜り、タブレットパソコンに向き合っていた。
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