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「このコーヒーとっても美味しいですね。ほづみさんが入れてくれたからかなぁ」
「ただのコーヒーだ。気持ちの悪いこと、言うなよ」
「つれないなぁ」と苦笑する遼に中指を立て、ほづみはモニターに向き直る。
どうしたって落ち着かないが、だからといって意識していると思われるのも癪だった。
「どうです? いいアイデアは浮かびました?」
「さあな」
話し掛けるなと思いを込め、素っ気なくあしらった。
ほづみの胸中を汲んだか、遼も黙って仕事に向かい始めたようだ。
生活音が響く室内には、互いの息遣いと、小鳥のさえずりのような作業音が絡み合ってゆく。
「天木志保里の起用は、俺への当てつけか?」
「まあ、半分は」
怒鳴りそうになるも、ほづみはすんでのところで耐えた。
「……で、残りの半分は?」
「ほづみさんのためですよ。まあ、つまり全部ほづみさんのためです。小学校での失恋、いい加減に克服して新しい恋を、僕と始めませんか? 体の相性はいいんです。心なんて後からどうにでもなりますし」
「冗談じゃあない。男と寝る趣味はないぞ」
ぱたん。とノートパソコンが閉じる音に、ほづみはびくっと肩をふるわせた。
「……いいですねぇ」
背後に立ち、手元を覗き込んでくる遼から甘い吐息が漏れる。
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