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 撮影が始まってから二時間あまり、百枚を越える画像から使えるものを選び出し、監督からのOKサインが出た。  緊張漂っていた現場が一気に緩み、興奮が覚めやらない調子の声が、あちらこちらから聞こえてくる。  今後の展開を期待させる反応に、隣に立つ遼は始終、顔がにやけていた。 「新見、顔が不細工になっているぞ」 「いいですよ。ほづみさんになら、どんな姿の僕でも見せてあげますよ」  絶えない減らず口にほづみはうんざりと肩をすくめた。 「雲越さん? 雲越ほづみちゃん!」  ガウンを纏った志保里が、高いヒールを鳴らし近づいてくる。 「あぁ、やっぱりほづみちゃんね。同じクラスだった子だわ。すっかり老けちゃったけど、面影がある。私のこと、覚えている?」  ぐいぐい詰め寄ってくる志保里に、ほづみは一歩、二歩と後退りながら頷いた。 「ほづみちゃん」と、小声で呟く遼を軽く睨んでから「覚えているよ」と答える。 「この指輪、デザインしたのよね?」  細く長い指に、当然とばかりに嵌まっている結婚指輪。  ダイヤモンドの煌めきは別格で、主である志保里すら宝石の一部のように美しく飾り立てていた。 「ありがとう、私を呼んでくれて。この仕事ができたこと、とても嬉しく思っているの」  抱擁ではなく握手を促され、ほづみは差し出された右手を取った。     
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