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「私、もう四十でしょ。変わらない美貌なんて持てはやされているけれど、実際はきれい事ばかりじゃなくて。主役は若い子にもっていかれるし、ドラマだって、性格の悪い母親役ばかり回ってくる。お婆ちゃんじゃあないだけ、マシかしら? このまま、しぼんでいくものなのねって、そう思っていたの」
「まさか、天木さんは綺麗な人だ。上手く使えない業界のほうが悪い」
「ありがとう、ほづみちゃん」
テレビで見る志保里はいつも堂々としていて、品のある気の強さがとても魅力的だった。
今も昔も、業界に必要とされている人物。ほづみからすれば、志保里の人生は順風満帆のように思えていたのだが。
「ウェディングドレス、着れるなんて思ってもみなかったわ。似合っているかしら?」
「ああ、とても似合っている」
お世辞など言える性格でもなく、ほづみの真摯な受け答えは志保里の表情を柔らかくほころばせた。
「まるで、指輪の魔法ね」
細い指で眩く、ダイヤの指輪。茨を編み込んだような華奢だが、鋭利な強さを合わせもつデザインは、女王のようでもある。
志保里は花を摘むように指輪をそっと抓んで、引き抜いた。
「指輪をつけて鏡を見たら、とても綺麗な女が目の前にいたわ。あなたは、現役の女優。あなたは、誰よりも美しい。そう、私に囁いたの」
指輪を差し出してくる志保里に促され、ほづみは右手を差し出した。
温かい体温が残る銀が掌に落ち、絹のように滑らかな肌がほづみの手をそっと包む。
「ありがとう、ほづみちゃん。わたし、また女になれたわ」
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