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口紅で彩られた唇で綺麗な弧を描き、志保里は、ほづみの手の甲に口づけを落とした。
ちゅっと、可愛らしいリップ音。肌に残るキスマークに、ほづみは呆然としていた。
「おやおや、隅に置けませんね。ほづみさん」
「……う、煩いんだよ!」
指輪を握りしめたまま、ほづみは口から飛びでそうなほどに高鳴る心臓に、冷や汗を浮かべていた。
「天木さん、聞きたいことがある」
なあに? と小首を傾げる仕草は子供っぽくてとても可愛らしい。
ほづみは、焦って声が裏返らないよう咳払いをしてから続けた。
「斉藤君は?」
小学校の頃、志保里と付き合っていた男子だ。
「斉藤君? あぁ、今はパリで、奥さんと事業をしているそうよ」
「……付き合っていたんじゃあ?」
淑女らしからぬ大口を開けて、志保里は笑った。
「いつの話をしているのよ。中学校で、早々に別れちゃったわ。じゃあ、そろそろ行かないと。また、ゆっくり食事でもしましょうね、ほづみちゃん」
マネージャーに呼ばれ、去って行く志保里を見送りながら、ほづみはから笑いを浮かべる。浮かべるしかなかった。
「なぁに、ショックを受けているんですか」
「……煩い」
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