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ショックと言うよりは、情けないといった心情だ。小学校の頃に負った傷を四十になるまで一人で抱えていたのは、さすがに、自分でも滑稽としか思えない。
「まあ……どんなに頑固で一途なほづみさんでも、一区切りつけられたんじゃあないですか?」
志保里のキスマークが残るほづみの右手をとり、「おつかれさまです」と囁く遼。複雑な心境は相変わらずだが、区切りが付いたと言えば、付いたのだろう。
感謝など、一ミリもする気はないが。
「ほづみさんは、本当にかわいいなぁ」
ちゅく。
と、志保里が残したキスマークをかき消すように、遼の唇がほづみの手の甲を強く吸い上げる。
「な、何やってんだよ!」
撮影は終わったとはいえ、まだ、多くのスタッフが残っている。
「騒ぐと、気付かれてしまいますよ」
「嫌でしょ?」と、意地悪く微笑む遼を振り払うほどの腕力がほづみにあるわけもなく、積み重なった機材の影へと追い込まれ、壁に押しつけられる。
「指輪、小指だったらほづみさんにも嵌まりますかね」
ぎゅっと握った拳を難なくわり開かれ、指輪が奪われる。
「離れろよ、いますぐ離れろ。何する気だよ、お前!」
「ほづみさん次第ですよ。大人しくしてくれたら、想像しているようなことはしませんし。うっかり、興奮してしまったら、僕自身なにするかわかりません」
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