番外編:ジャック・オ・ランタンの憂鬱=前

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イベントとしての飲み食べ放題の時間は二十一時までだけど、その後も通常のオーダーはできる。 イベント終了の三十分前にも関わらずまだお客さんが入ってくるようだ。 そして今入れ替わりで一組帰って行った。 国分くんはレジと一階の飲み物出しだけで精一杯のようなので、オレは二階の空席状況を伝えに行った。 レジに立つ国分くん……本当にカボチャが似合うなぁ。 黒いTシャツに黒いパンツで短い紫のマントを肩にかけ、ふっくらしたカボチャの被り物。 顔はふくふくとしてるのに手足の細い国分くんだから、頭が大きくなると本当に田舎の素朴な小学生みたいに見える。 隠れ国分くんファンの人たちはもちろん、それ以外の人たちにも可愛い可愛いと大好評だ。 「トリック オア トリート!」 会計を済ませた一階のほろ酔いのお客さんが陽気に叫んだ。 ハロウィンイベントの参加者でなくとも、帰りにレジに一声かけるとお土産にキャンディやクッキーなどのお菓子を一つ貰える事になっている。 人数分クッキーを渡しニコニコと見送った国分くんが、オレを見た途端、寂しそうな顔になった。 「僕……ハロウィンは苦手なんだ。にもかかわらず、今日に限ってレジ担当だなんて悲しいよ」 「え、苦手なの?」 あんなほっこりするニコニコ笑顔だったのに意外すぎる。 「伊良部くん『トリック オア トリート』の意味知ってる?」 「えーっと『お菓子をくれなきゃイタズラするぞ!』だよね」 「うん、良くないことだよね。愛すべき子供たちにロクでもない事を教えるなんて……って悲しくなるんだ」 居酒屋レジのジャック・オ・ランタンが寂しげに俯いた。 「あー、オレあんま考えたことなかったわ」 「そっか。日本各地でお接待として子供達にお菓子をあげる風習もあるのに、ハロウィンで子供達に脅し取ることを親が教えるんだなぁ……って思うと、はぁ……」 「ああ……そっか、ふーん」 オレのイトコが住んでる地域でも確かお接待ってあったな。 幼心になんでお菓子をもらえるのかわからず、申し訳なく思った。 そうやって考えると、もらえて当然と思ってるっていうのは、ちょっと可愛げがないかもしれない。
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