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「無垢な子供は大人に教え込まれて『トリック オア トリート』って言ってしまうだけだから、しょうがないと僕も思うよ。でも「施しを与えるか、さもなくば騙し惑わせるか」なんてそんな二択……」
そこにまた客さんたちがやってきた。
「あ、レジで言えばいいんだよね、トリック オア トリート!」
ハロウィンイベントの参加者だから、会費を支払い済み。合言葉を言ってお菓子をもらいご機嫌で店を出て行った。
それをニコニコ笑顔で見送った国分くんが、オレをドロン……とした目で見た。
「ほら、今の。レジで『トリック オア トリート=施しを与えるか、さもなくば不幸な目に合うかどっちか選べ』って言ってお菓子を持っていくのって、これ、もう強盗だよね?」
「え……?」
「しかもジャック・オ・ランタンって、悪霊を打ちはらう飾りなんだよ。お客が脅し取ろうとする悪霊で、僕はレジに配置されたジャック・オ・ランタンって……悪霊からこの店を守れって言われても僕には荷が重いよ」
多分、国分くんは本気でこんなことを思っているわけじゃなく、単純にハロウィンに共感できなくてゴネてみただけなんだろう。
「今日の伊良部くんはポリスだけど、お客さんを強盗容疑で逮捕してもらうわけにはいかないしね」
確かに帰り際にいちいちそんな寸劇を展開されたらめんどくさいだろう。
いや、ハロウィンだから喜ばれるか……。
うん……下手に喜ばれたらもっとめんど臭いことになってしまいそうだ。
「あーでも、ハロウィンってかぼちゃのお菓子とか増えて楽しくない?パンプキンケーキとかパンプキンプリンとか国分くん好きそう。かぼちゃだと何が好き?」
「うーん……。僕はおばあちゃんのかぼちゃの煮付けが一番だよ」
ああ、食べ物の話なのに、国分くんの肩が小さく下がって見える。
「なるほど。……でも、ああ、あれは?かぼちゃの天ぷら」
「……ああ!そっか、それがあったね。うん、好きだよかぼちゃの天ぷら!」
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