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「い、いや、したくなるってだけで、やらないから。だからお願い。爪切り続けさせてください」
「……爪切りだけだぞ?変なことするなよ?」
「うん、爪切りだけ」
日置がオレに『施し』として爪切りしてるはずなのに、オレが『爪切りさせてやっている』というわけのわからない感じになってきた。
けど日置がしたいことをオレがさせてやって、お互いハッピー。
「うん、ハロウィンじゃなくってwin-win(ウィンウィン)だ」
………あ、しまった。くだらないダジャレをつい声に出してしまった。
けど、それを聞いた日置は満面の笑みだ。
「なぁ、冬の間はずっと靴下履いてるし、お前くらいしかオレの素足を見る奴いないから、そこまで丁寧にしなくても……」
うっとりとした日置の顔。
「そっか。この生足を見るのは俺だけ……はぁ……」
日置の独占欲はわかりやすい。
手錠をつけた手で捧げもつ足の甲にその綺麗な顔がそろりそろりと近づいた。
どうやらオレはハロウィンの悪霊払いに失敗したらしい。
日置の仕草にオレの中の小悪魔が顔をのぞかせた。
唇を避け、すっと足先で日置の顎を上に向ける。
「こらっ、今また足にキスしようとしただろ」
「え……いや、その……」
バツの悪そうな顔が可愛い。
慌てる日置の頬に手を添え、すっとなぞったあと、顔を強引に引き寄せチュ…チュ…とキスを散らした。
「ちょっとくらいならいいけど、何回も足にキスした口にキスしたくない。日置はオレとキスするより、足の方がいい?」
「んっ……はぁ……ラブちゃんの方が……いい」
もうすぐ帰らなきゃいけない時間だし、爪切りも終わっていない。
なのに小悪魔が日置を惑わせる。
「ん……はぁ……」
ニッパーを置いてキュッと抱きついてきた日置が、熱のこもったキスを返してきた。
舌が熱く、優しく絡み合い、オレの口内に官能を呼び起こすように遊ぶ。
オレも応えて日置の舌先を味わい、ヤワヤワと甘噛みする。
「日置、ヤキモチ妬かせようなんて小細工考えるより、こうやって気持ちのイイキスでお前に夢中にさせてよ」
「ラ……ラブちゃん……」
「なあ、日置……もっとキス」
「ん…んん……」
両手を手錠で拘束された日置を、ポリスなオレが抱きしめソファに押し倒す。
小悪魔でいる時間はあとちょっとだけ。
だからこそ深く深くまどわせ、濃密で甘いひと時を楽しもう……。
《終》
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