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狭い田舎町の、少ない若者同士が恋愛を続ける、しかも同性となると、運用が難しくて仕方がない。
いつどこで誰が見ているか分からないし、それが同級生に近しい人物だと、直球で疑ってくるので大変厄介である。
年末は目の回るような忙しさだった。バイト先の接骨院は、駆け込み外来が多く、ボーッとしている暇が無かった。重ねてドカ雪が降り、雪掻きにも奔走していた。我が家の前と近所の一人暮らし老人宅が数件、農作物のビニールハウスと大晦日まで雪に追われた。
本当は29日から、のんびりだらだら夏緒と過ごす約束をしていた。にもかかわらず夏緒宅を訪問できたのは31日の夜だった。向こうも同じくらい忙しかったに違いなく、久しぶりの夏緒は疲れていた。
「ユキちゃん、やっと会えたね。近くに住んでるのか分からないくらい忙しいってどういうことなんだろ」
夏緒の部屋はいつも以上に汚れていた。着ていた服やら山積みの書類が床いっぱいに広がっている。
「夏緒、寝てたでしょ」
「うん。コタツでうとうと」
「顔に跡が付いてる」
頬に付いた線を撫でると気持ちよさそうに夏緒は目を細める。
「あぁ……やっと本物のユキちゃんだ」
「忙しかった?」
「もう。猫の手を借りたいくらいに」
掌にすりすりと頬を寄せる仕草が本当に猫のようで可愛い。
「飯食おうか。色々持ってきた」
「腹ぺこだよー。仕事終わらせるのが最優先で朝からなんにも食べてない」
『とにかく何事からも邪魔の無い正月をユキちゃんと過ごしたい』と、持ち帰った仕事を必死で終わらせたようだ。散乱した部屋が膨大な事務処理を物語っていた。
俺は両手に提げていた紙袋から保存容器を取り出し、コタツへ並べる。机上は慌てて夏緒が片付けた。
夏緒と年末年始を過ごすと家族へ伝えたところ、色々と持たせてくれたのだ。夏緒は甥っ子の担任で人当たりが良いため、我が家の女どもには人気であった。
「うわーお。お節じゃん。前から思ってたけどユキちゃんち、ちゃんとしてんだね」
「いや、ここら辺では普通だけど」
「今から食べちゃったら明日食べるものなくない?元旦はお店やってないよ」
「気にしなくていい。食べるものが無くなったら取りにおいでって、母さんが」
「有難いね。明日は外に出れるか、ユキちゃん次第だろうけど……では、いただきます」
意味深な言葉を残し、夏緒は手を合わせて食べ始めた。
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