夏が嫌いな理由

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「いい加減、外に出て見たら?ここには何もあんたを虐めるものは無いんだから。」 寝ている俺を姉ちゃんが跨いで言った。姉ちゃんは俺より2歳年上でバツイチだ。いわゆる出戻りで、小学生の息子がいる。隣の市から去年帰って来た。元旦那は甲斐性無しの良いとこ無しだそうで、現在は連絡すら取ってないという。 「ぁぁ……暑いのが嫌で、何もやる気が起きないんだ。」 「お医者さんだって徐々に外へ出た方がいいって言ってたじゃない。夕方に散歩してみたらいいわ。今の時期は夕日が綺麗よ。なんなら朔弥もお供に付けるから。」 「気が向いたら、やってみる。」 返事をしながら天井をぼんやりと眺めた。そんな俺に姉ちゃんが溜息をつく。 「いや、強制しようかな。朔弥と行ってこい。リハビリに行きなさい。」 「………………」 朔弥は甥っ子で、母親想いの優しい子だ。こうしてゴロゴロしているだけの俺を気遣って、毎日声を掛けてくれる。もうじき元気に学校から帰ってくるだろう。 こんな田舎でも医者は揃っていて、俺は近くの心療内科へ通っていた。『鬱状態による、自律神経失調症』と診断が下り、投薬治療を始めたら少し楽になった。背負うものをすべて下ろしたからかもしれない。チンケなプライドや人間関係すべてを捨ててきた、ただのつまらない男だ。スルメみたいに干からびても死に切れなかった。それだけだ。
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