夏が嫌いな理由

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俺の黒歴史は、すべてこいつが知っている。 俺は、ガキの頃、周囲が手を焼くぐらいの悪ガキだった。先生を泣かせたり、授業を途中で抜けたり、当時の子供としてはかなり悪かったと思う。たぶん、田舎の学校を代表した不良小学生だ。 その時にできる限りの悪事を働いたからか、満足した俺は中学では急に大人しくなった。俺の進学を見越してやり手の先生が転任してきたが、空振りに終わっている。 悪かった時に、一番仲が良かったのが夏緒だ。2人で色々趣向を凝らした悪事をやった。学校の先生にしょっちゅう呼び出されて、廊下に立たされた。離れて立たされた時は、咳払いや足踏み等合図を決めて送り合っていた。今まで忘れていた。毎日が楽しくて、学校へ行きたくて仕方がなかったことを。そして、次は何しようか足りない頭をフル回転させていて、瞳がキラキラ輝いていたことを。 目先の辛いことばかりに気を取られて、過去の幸せだった自らを無いものにしようとしていた。社畜だった自分は確かに死ぬほど辛かったが、小学生だった自分は死ぬほど毎日が楽しかった。 幸せだった頃をわすれちゃいけないな。 もう会社に行かなくても良い、あんな辛い思いはしなくてもいいよ。 おかえりなさい……小学生の自分が夏緒を通して赦すように微笑んだのだった。
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